ゆるし

森田 直樹 神父

　聖書によると、イエスさまと弟子たちとの最後の晩さんの後、イエスさまは弟子のペトロに「ペトロ、言っておくが、あなたは今日、鶏が鳴くまでに、３度わたしを知らないと言うだろう。」とおっしゃいます。（ルカ22・34）

　ペトロは、「主よ、御一緒になら、牢に入っても死んでもよいと覚悟しております」（同22・33）と意気込んでいたのに、このような言葉を残されたのでした。

　その後、オリーブ山で一同が祈っている時に、群衆が現れ、イエスさまが連れ去られてしまいます。ペトロは遠く離れてついていき、ユダヤ教の大祭司の屋敷に入っていきます。この屋敷で、周りの人がペトロに向かって、イエスの仲間だと言い始めます。しかしながら、ペトロは３回、イエスさまとの関わりを否定します。すると、突然、鶏が鳴き出します。そして、「主は振り向いてペトロを見つめられた。」と聖書は伝えています。（ルカ22・61）

　「死んでもよい」とまでイエスさまに言ったペトロですが、イエスさまの言う通り、３回、「知らない」と言ってしまいます。そのペトロをイエスさまが見つめられたのです。さて、イエスさまのまなざしは、どのようなものだったのでしょうか？

　私はこう思います。このまなざしは、ゆるしといつくしみに満ちた、とてつもない優しいまなざしではなかったか、と。ペトロ自身がイエスさまを否定したにも関わらず、赦しに満ちたあまりの優しいそのまなざしに、ペトロは激しく心打たれたのではないか、と思うのです。

　その後、ペトロは屋敷の外に出て、激しく泣いた、と聖書は伝えています。

　イエスさまのゆるし、それは相手を責め立て、咎めて与えられるものではなく、とてつもない優しさに満ちあふれたまなざしから注がれるものだ、と私は思います。