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ゆるし

シスター 山本 久美子

今日の心の糧イメージ

 修道生活を歩み始め、年上のシスター方との共同生活を通して、私はそれまであまり意識していなかった自分に向き合う恵みをいただきました。修練期間で、それまでになく他者からの評価も気になり、私は、自分自身の現実に落胆し、受け入れることに疲れていました。修道生活への召命にも疑問を感じ、諦めかけていた時、「わたしは誰か」というテーマの研修会に与り、自分の内面を見つめる作業を行いました。

 そこで、小さい頃からの印象に残る思い出を一つ一つ丁寧に思い起こし、十分表わして来なかった感情を味わい直しながら、ある出来事には涙が止まらなくなりました。

 大人になり、まだ幼かった私をふり返り、驚いたり、自分が愛おしくさえ感じたりする、不思議な体験でした。それは、自分への心からの共感、「ゆるし」、自分との和解の体験でした。無意識のうちに、子どもの心の奥深くに仕舞っていた感情にも気付き、幼いながら懸命に頑張って生きてきた自分自身を抱きしめたいような思いに駆られました。

 大人になった私が、まるで母親のように、まだ幼い子どもの私に、子どもらしく泣いたり、怒ったり、自然な感情を表わすことをゆるすことができたのです。それは、抑えられていた感情が過ぎ去り、幼い頃に受けた傷がゆっくりと癒されるプロセスでした。

 自分のもとにやって来た子どもたちを遠ざけた弟子たちに、「子供たちをわたしのところに来させなさい。」(マルコ10・14)と言われたイエスのみことばを思い出し、召命の道も再確認できました。イエスのいつくしみのうちに自分をゆるすことは、子どもたちがイエスのもとに行き、祝福のうちに抱き上げていただいた体験に通じるように感じました。