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気づき

松浦 信行 神父

今日の心の糧イメージ

 もう30年にはなるのでしょうか。神父になりたての頃、私は神戸の教会に赴任し、1年後には東京の修道院勤務でした。その後、神戸時代に食事の世話をして下さった方から、ご自分のお姉さんを紹介されました。

 お姉さんの息子さんは、その頃青年で、ガンを患っていて、神父の私に見舞いに行って話し相手になってくれないかという願いがあったのです。

 半年ぐらい病院に通ったでしょうか、その青年は、ガンを克服して家に帰っていきました。ところが、すぐに別のガンが見つかったのです。また私は呼ばれて、病院に通いました。しかし今度は退院間近に、脳の奥に隠れていたガンが破裂して、亡くなってしまいました。

 このショックで、お姉さんが精神的に不安定になり、夜も寝付かれずにいました。

 その家は、夫婦双方の年老いた母を抱え、ご主人は精神的な疾患があり、弟さん二人も同居の大家族で、その負担を彼女一人で担っているといった感じでした。

 彼女は、私に電話を掛けてきては、「神様は私だけをいじめている」と愚痴を繰り返します。その言葉に、私は何も言えずにただ聞いているだけでした。

 そのようなやりとりが続いていたあるとき、「神父さん、判りました」と、電話がかかりました。私が聞き返すと、「神様が私だけをいじめていると思っていたのですが、『いじめている』に隠れて『私だけ』という方を無視してきました。『私だけ』を意識すると、神様は私を特別に見て下さっていることに気がついたのです。」と、説明してくれました。

 神から私だけが特別に見つめられているという感覚に、私は一人ではないのだ、神が支えてくださっているのだと気づいたのだそうです。