「母危篤、意識無し」との電話が入り、気も動転しました。出先から兎に角戻って、取るものも取り敢えず、幾つか乗り継ぎ、救急搬送された病院に着いたのは夜も遅くでした。
「家族の方は明日朝また来られると先程帰られましたよ。意識戻っていないし、今晩は私達が見守りますから、遅いので明日朝ご一緒に来られたら・・、遠くからお疲れでしょうから」
夜半近く、遠路駆け付けた私の事を思ってでした。
しかし、一目会ってとICUの奥へ案内されました。私には考えが有ったのです。母親がいつも祈っているロザリオの十字架の先の尖ったところで指先をつつけば、意識が還るのではないかと。看護師さんが離れた後、早速ロザリオの十字架の先でベツトの母親の手の指先をつつきました。何を思っていたかは忘れました。
と、何と母の目が微かに動き開いたのです。私は大声で「看護師さん、母、意識戻りました」と叫んでいました。速足で来られた看護師さんは「林さん林さん分かります?」と繰り返し、そして「この方分かりますか」と私を指差したのです。私はその時、一瞬何かどきっと不安になりました。分かりません、知りませんと言われたらどうしようかと。
母はその時「私の大切な息子です」と答えたのです。
母が助かったという安堵と、何か私が救われた安らぎを感じたのです
他の事は忘れました。その後その病院で治療・養生した母は、本人の希望した病院、生前ボランティア活動で通ってもいた病院で帰天しましたが、あの時の「大切な息子です」の一言は、常に安らぎを与えてくれています。
大切なあなたです。この究極の一言を、出会い、関わる人々に心から伝えていくと、お互いに安らぎが与えられるのかな、と思ったりしています。