先輩のKさんとは作家・遠藤周作の読者の集いで出会って以来、20年の交流が続いています。私が初めて参加した時は知りあいがなく、誰に声をかけていいか分かりませんでしたが、彼とは気が合い、折に触れて文学談義に花を咲かせる間柄となりました。
互いに文章を書くことが好きで、10年前に私のひとり息子がダウン症の告知を受けた際には、心のこもった文章を書いてくださいました。待望の我が子の誕生と共に障がいがあることを告げられた私たち夫婦は目の前が真っ暗になりましたが、彼の文章に胸を打たれ、深く励まされたのでした。
Kさんは高齢のお母さまと二人暮らしで、90歳を過ぎた頃から介護が必要になり、入院して1年が過ぎた頃、「母の年齢を考えると、まもなく私も独りになってしまうから、最近は眠れないのです...」と、寂しそうに打ち明けてくれました。長年勤めた仕事も定年となり、ほとんど家に引きこもるようになった彼に、〈できることはないだろうか?〉と考えているとアイディアが浮かびました。
遠藤周作の小説『沈黙』に影響を受けたというKさんはクリスチャンではないものの、聖書に深い関心があります。彼と語らうたび、〈魂の救いを求めている人だ〉と感じていました。私は心のケアの活動をしており、月に一度、私の談話室で聖書の読書会をすることを提案しました。聖書を読み、印象に残る場面や御言葉について分かち合った後は、原稿用紙に彼の思いを書いていただきました。
自分の気持ちを言葉にすることでKさんの心は浄化されたようで、その後、徐々に外出できるようになりました。彼は今月も談話室に来てくれる予定で、聖書を通して語らうひと時を私も楽しみに待っています。