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安らぎ

松浦 信行 神父

今日の心の糧イメージ

 私は4月に東京の神父養成所である神学院から、大阪の町のど真ん中にある教会に転勤となりました。

 神学院は緑豊かで、そこに住んでいて、通勤もなく、生活ものんびりしていましたが、新しい教会では、別の居住教会から通勤するために、いつもバタバタしていました。

 そして5月の中頃にやっと引っ越し荷物の整理ができ、散髪にいきたくなりました。教会の受付の人はすぐに、歩いて数分の所にある散髪屋さんを紹介してくださいました。

 初めての店は、緊張します。(ここかしら)と様子を外からうかがっていると、店の人がこちらを見ているのです。そして私がドアに手をかけるよりも早くその方がドアを開けて「いらっしゃい」と招くのです。そして「30分後に予約が入っているので、早く早く」と続けたのです。

 そして、すぐに「私何歳だと思いますか」と尋ねられました。余り歳を取ったように答えるとがっかりされるだろうと思い、恐る恐る「70歳ぐらいですか」と答えると、「ありがとうございます。私、今年で83歳になりました。」とニコニコと答えてくださいました。

 それから、話が弾みました。私が余り髪の毛を気にしていないことから、彼は「少しはおしゃれになってください」と言い、「髪の毛は頭の横がしっかりと刈られていたら後は付け足しだ」、「仕事が続けられて幸せで、体力をつけるために一日一時間ほど歩いている」、「勉強のために2ヶ月に一度はほかの散髪屋を回っている」などと話してくれて、83歳とは思えない、元気で前向きな姿を見たのです。

 それは久しぶりに、自分の人生を精一杯生きている人に出会った喜びと、このように年を取りたいという「安らぎ」を感じさせてくれたひと時でした。