▲をクリックすると音声で聞こえます。

挨拶

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

 たった一つの挨拶で、気持ちがすっと軽くなり、生きる力が湧いてくる。そんなことがときどきある。例えば、仕事で疲れ切り、うつむきかげんで修道院の廊下を歩いているとき、先輩がかけてくれる「お疲れさま」の一言。その一言は、先輩の穏やかな笑顔と一緒に心の奥深くまで沁み込み、疲れを一気に癒してくれる。それを、言葉の力と呼んでもいいかもしれない。たった一言に、相手の気持ちをすっかり変えるほど大きな力が宿ることがあるのだ。

 この力は、いったいどこから生まれるのだろう。それは、もしかすると、相手の中に蓄えられている喜びや安らぎ、感謝などが、挨拶を通してわたしたちの心に届くということなのかもしれない。言葉は、その人の心の中にあるさまざまな思いをのせてわたしたちに届くのだ。「お疲れさま」という一言の中に、その人の心の中にある、「あなたに会えてうれしいよ」「辛いことがあっても一緒に乗り越えて行こう」「何も心配する必要はないよ」といった思いがぎゅっと詰め込まれている。そんなことがありうるのだ。

 もう一つの可能性は、挨拶を通して互いが相手に一瞬心を開くとき、わたしたちの間に愛が生まれるということだ。わたしたちの間に愛が生まれるとき、その愛は、わたしたちをやさしく包み込み、喜びや力で満たしてくれる。疲れ切った心に、再び立ち上がる力を与えてくれる。心を開いて挨拶を交わすとき、わたしたちの間に神が宿ると言ってもいいかもしれない。

 疲れているときや忙しいとき、つい挨拶をおろそかにしてしまいがちだが、むしろそんなときこそ挨拶を大切にしたい。

 たった一つの挨拶が、相手を救い、自分自身を救うことさえあるのだから。