「お早うございます」。
私も、オーケストラや合唱団のリハーサルを始める時は指揮台の上から、まずこの言葉で挨拶をしてから始めています。
しかし、私も昔は午後や夜の時間帯に、「こんにちは」や「こんばんは」ではなく、「お早うございます」と言うのが、何か芸能人っぽくて、嫌だったものです。
ところが、それほど嫌ではなくなったのは、私がまだ神学生で、神学の勉強にフランシスコ会の大神学校に通っていたある日、カリキュラムの中に民俗学という項目が入っていた事によります。
それによりますと、農家の人の間だったと思いますが、昼過ぎでも夕方でも、田んぼで出会えば、「お早うございます」と挨拶したそうです。つまり、仕事に向かい合う清新さによって、「お早うございます」という挨拶になるわけです。以後私もこの挨拶を伝統的なものと認識し、抵抗を覚えなくなりました。
さて、ここで目をイタリアに転じて、ヴェネツィアへ列車で来たとします。海を渡って終点のサンタ・ルチア駅で下車しますと、目の前が大運河。ひっきりなしにやってくる「ヴァポレット」という水上バスに乗って、大運河出口のサン・マルコ広場で下船すると、すぐ対岸右手に旧税関の建物、その更に右手に、堂々とした丸屋根を持った美しい「サンタ・マリア・サルーテ教会」が見えます。
この教会は十七世紀にペストが大流行した時に「聖母に捧げる」として建てられた教会で、聖堂の名前「サルーテ」は挨拶の言葉です。
例えば私がくしゃみをしたとすると、とたんに誰か親切な人がかける挨拶が「サルーテ」(お大事に)です。
人々はここで病の平癒を願い、聖母マリアがイエス様に取り次いで下さるように必死で祈ったのでしょう。