五島の子供たちが物心ついて、初めて親から言われることは、「ちとことせんばよ」ということである。
お母さんのお乳を飲む時も、御飯を食べるときも、具合が悪くて薬を飲む時も・・・そう言われるのである。
それで、小さな手指を額にあててから、食べたり、飲んだりするのであった。
「ちとこと」とは、父と子のことである。十時を切る時の「父と子と聖霊の御名によりてアーメン」の略なのである。
一日の始まり、一日の終わり、すべて神さまにあいさつすることが日常生活の基本なのである。
父母が神さまへの挨拶の後に教えたのが、人に対するあいさつである。
「人の顔さえ見たら、すぐにあいさつばせんばよ。知らん人でんよか、初めて見た人にでん、ニコニコしてあいさつばせんばよ」。
我が家は五島の福江市の中心部に家があった。人通りが多かったので、幸いなことにあいさつをする機会は多かった。家の前に立って私と弟はにこにことして「おはようございます」、「こんにちは」、「こんばんは」とあいさつするのが日課であった。
私たち五人のきょうだいはこうして、あいさつのよく出来る子供に成長したのである。
母は人と道であった時、せかせかと歩きながらあいさつするのではなく、必ず立ち止まってからあいさつばせんばよと言っていた。
たった数秒立ち止まるだけで、相手に敬意を表し、丁寧に見えるというのである。
教会の学校、けいこ部屋で、教え方さまから十字の切り方をそれこそ丁寧に教えられた。
神様へのあいさつだから最高の心もちで十字を切るようにと・・。