数年前、マザー・テレサの足跡をたどる巡礼旅行でインドを訪れたとき、アニクという青年がわたしたちのグループのガイドをしてくれた。一緒に行動する中でわたしが感心したのは、どんな困難があっても決してあきらめない彼のたくましさだ。
インドを旅していると、思いがけないことが次々に起こる。列車が遅れたり、バスが渋滞に巻き込まれたり、崖が崩れたり、橋が落ちたり、なかなか予定通りにはいかない。巡礼団の誰かが体調を崩すこともよくある。そんな旅のガイドをするのは、本当に難しいことに違いないのだが、わたしたちのガイドのアニクさんは決して音を上げなかった。どんな困難な状況でも、「大丈夫、なんとかなります」と涼しい顔で言って、実際に乗り越えてしまうのだ。インドでの生活にトラブルはつきもので、このくらいでいちいち驚いていたら生きていけないということでもあるのだろう。決してめげない彼の姿に、わたしはインドに生きる人々の強さを見た気がした。
旅をするとき、わたしたちは「今日はあそこへ行って、ここへ行って」と計画を立て、その通りにならないと、いらいらしたり、怒り出したりする。計画通りになるのが当たり前と思っているからだ。だが、それは無理というものだろう。現実が、自分の思ったとおりなるとは限らないし、むしろ、思ったとおりにならないのが当たり前なのだ。そこのところを勘違いすると、せっかくの楽しい旅が、不満だらけのつまらない旅になってしまう。
人生という旅にも、きっと同じことが言えるだろう。「人生は、自分の思ったとおりにならなくて当たり前」ということを忘れず、思った通りならない毎日を、むしろ楽しむくらいのゆとりを持ちたい。