私は普段、机に向かっている時間が長い。そんな仕事だから仕方がないが、孤独で過ごす時間があまり長くなると、私の場合、心が折れやすくなってくるようだ。
だが先日、或る人から「折れない」話を聞かせてもらった。話をしてくれたのはベテランのプロボクサーで、実力のある選手である。
ある時、彼は世界王者である選手とスパーリングをした。スパーリングは練習ではあるが、内容は実戦に近い。真剣に打ち合ったが、彼は自分のパンチが相手に効いていないような気がした。確実にパンチは当たっているのに、手応えが微妙である。どうやら王者は、打たれた時、そのダメージをそのまま真っ直ぐに受け止めず、うまく身体を引いたり動かしたりすることで、敵の打撃力を身体の外に流してしまうらしい。それが分かって、どうしようかと考えているうちに、彼の方がダメージを受けてしまったそうである。
これはもちろん、動体視力と身体能力に優れたプロボクサーだから分かることで、私などには全く見分けがつかない。ただ高度な技術であることを想像して感心するばかりだった。合気道などでは、そのような技も聞いたことがあるが、ボクシングでは大変難しそうにも思えた。
人は降りかかる災厄や他人の悪意などを避けることはできない。生き延びるには「折れない」ように受け流し、しなやかに回復することだ。そのためには自分の思考と感性をまず柔軟にすることと、孤独でいないことだと私には思えた。戦っているのはボクサーばかりではない、私たちも日々を戦っているのだ。
しなやかにこの時代を生き延びたいと思う、人々と共に。