「オイシイー、アリガトウ」・・・。
今から30数年前、ラグビー部で青春を謳歌していた一人の少年が、悪性の脳腫瘍に侵され、臨終の苦しみの最中、小さな氷を口に入れてもらった時の最期の言葉です。
日頃から「今を生きる」という言葉を、自分のモットーとして生きて来た筈の私にとって、その少年の言葉は、驚きでした。
私自身も生来病弱で、青年時代に何度も入退院を繰り返していた私は、かなり我が儘な患者で、看護師さん達を困らせていました。
「自分は哀れな病人であり、看護師さん達にお世話になるのは当然だ」、という意識があったようです。特に手術後などは、シスターだった婦長さんに、「あの時のあなたのお世話は大変だったわねー」などと、今も言われる程でした。
あの脳腫瘍だった少年の病室に泊まり込み、メモを記していた、少年の母、佐藤加奈子さんの手記が、出版社の目にとまり、「飛翔」(ー愛といのちの記録ー)として出版されました。それを読んだ全国の人々の心を打ち、多くの若者達が東京の少年の家を訪れ、花束を捧げたと聞いています。
それは、あの苦しい臨終の苦しみの最中でも感謝の心を忘れず、小さな氷を口にした時の最期の言葉が、「アリガトウ・・」という感謝の言葉であったことに心を打たれたからだったと思います。
この原稿の最初に書いたように、「今を生きる」という言葉を、自分の生涯のモットーとして生きてゆこうと決心した筈の私自身を振り返って見ますと、ちょっと恥ずかしい感じがします。
「自分は病弱なんだから」という思いを理由にして、"感謝"するどころか、「親切にされて当然」という思い込みがあって、そっと反省している今日この頃です。
(「心の糧」アーカイブ2014年6月より)