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沈黙

崔 友本枝

今日の心の糧イメージ

 「沈黙」には様々なものがあります。病気の見舞いに来た人が、友人の苦しみを自分のことのように感じて黙って顔を見つめる、あたたかい沈黙。恋人同士が、お互いの気持ちが同じだと感じて自然に生まれる柔らかな沈黙。ケンカのあとの冷たい沈黙などです。

 聖書を読むと聖母マリアさまはよく沈黙なさっていますが、それはこの中のどの沈黙とも違います。

 ある日、とても難しい出来事が14歳の少女マリアに起きました。天使ガブリエルが現れ「あなたは身ごもって男の子を産みますよ。その子は神の子と呼ばれる方です」と言ったのです。マリアは「どうしてそのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに」と質問すると「神にできないことはない」と天使は答えました。これを聞いてマリアは神のご計画を完全に受け入れました。(参 ルカ1・26~33)

 しかし、婚約者ヨセフにどうやってわかってもらえるでしょう。マリアは苦しみながら祈ったはずです。旧約聖書にはダビデ王の子孫である乙女から、救い主メシアがお生まれになる、と預言されています。(参 イザヤ7・14)マリアはダビデ王の子孫ですから本当にその通りになるのです。しかし、もしヨセフが「自分の子ではない」と人に言ったなら、マリアは姦淫の罪で石殺しになります。どのようにしてこの局面を乗り切ればよいでしょうか。

 彼女は神に信頼し、すべてを委ね切って沈黙しました。神さまが解決してくれることを信じて待ったのです。

 やがて、ヨセフの夢に天使が現れ、ユダヤ人なら知っているイザヤの預言を思い出させ、マリアの子はメシアであると伝えたのです。

 聖母マリアの沈黙は、命をかけた神への信頼の表れでした。