「人間はさ、眠っている時にはどげんな悪人でも悪かことはせんとよ。人間はさ、どげんな根性の悪か人間でも、眠っている時には黙っとるけん、人の悪口は言わんとよ」とは父母の言っていた言葉である。
確かにそうである。
ずいぶん以前に少年院にいる子供たちを対象に講演をしたことがある。
その時にも刑務官の人が「眠っている姿を見ると、みんなあどけなくて可愛い、どこにあんな悪いことをする芽がひそんでいたのかと首をかしげる」と言っていた。
歳を重ねるに従って、眠りが浅くなり、夜中によく目が覚めて、これまでの様々なことを思い出す。
眠れない時には無理に眠ろうとせず、あれこれ考えて時を過ごす。
そして、最近思いついたことがある。
カトリックでは死のことを永遠の眠りというが、この言葉の意味深さを考えていた時に思いついたのである。
毎日の眠っている姿でさえ、「眠っている時には悪いことをしない」とその姿を見た人たちは言ってくれる。
それなら、永遠の眠りについた人を見て、その後、悪いことをするなど誰も思わないだろう。
両手を胸のあたりで合掌し、永遠の沈黙を貫くために口をかたく閉じている。
生前、どんな悪事を働いた人であっても、永遠の眠りについたとたん、真人間に生まれ変わったような気がしてならない。
そう思うようになってからは、等しく神さまに愛を持って迎えられているのではないかと想像を逞しくしている今日の私である。