ずいぶん前のことになりますが、「緊張感に満ちた沈黙」というものを体験したことがありました。たまたま手元に無料のオルガンコンサートのチケットが届いたのです。初めての体験でしたので、喜んで出かけました。
コンサートホールに入ってみると、オルガン演奏の前にもかかわらず、何となくざわざわしています。誰かが大声で話しているわけではないのですが、あちらこちらからレジ袋を触る音や、何かしらの音が聞こえてくるのです。
演奏者が入って来ても、ざわざわとした雰囲気は変わりません。ついに演奏者はオルガン演奏を始めてしまいました。この時の演奏は素人の私が聞いていても、今一つだな、という演奏内容でした。無料のチケットだから、仕方ないのかもしれない、とあきらめたりもしました。
しかしながら、さすがプロの演奏者です。演目が進むにつれて、聴衆をぐいぐいとひきつけていくのがわかりました。聴衆は食い入るように演奏に耳をすませていきました。
すべての演目が終わって、演奏者が退場すると、アンコールを求める拍手がホールに鳴りやみませんでした。
拍手に応えて演奏者が再び入ってきました。アンコールの演目を演奏するのです。すると、会場はしーん、と静まり返り、物音ひとつすることなく「さあ、私たちにあなたの演奏を聞かせてください」といった気迫に満ちた沈黙ができたのです。
演奏者は一番最初に弾いた曲をもう一度演奏しました。しかしながら、これはとても素晴らしい圧巻の演奏でした。
「さあ聞かせてください」という気迫に満ちた緊張の沈黙。この沈黙は一人では作り出せませんが、神さまとの語らいである祈りや礼拝にぜひとも生かしていきたい、と私は考えています。