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まなざし

シスター 山本 久美子

今日の心の糧イメージ

 小学生の頃、腕を骨折して入院した時、父が仕事先から病院に駆けつけてくれました。

 ベッドで横たわる私に向けてくれたその時の父の優しいまなざしと表情を、今も時々思い出します。

 90歳の私の父は典型的な昔の人間で、子どもの頃の私は何よりも父が恐く、いつも父の顔色を窺って育ちましたが、この思い出が今も鮮明に私の心の中に残っているのは、私にとって、父の優しさと愛情を実感した印象的な体験だったからだと思います。

 「目は口ほどにものを言う」ということわざがありますが、会話がなくても言葉を超えた目線や表情、しぐさ等で相手への強い思いや気持ちは相手に伝わるものです。

 数年前、母が入院した時も、父はあの時私に向けてくれた同じまなざしで母を見守っていました。何10年も経ってからの出来事でしたが、母の心身の痛みに心から共感する父のまなざしに出会って、私は、かつて私に向けてくれた父の眼を思い出し、あらためて父の人となりを温かい思いで理解できたように思いました。同時に、父を理解しようとするこの私をもっともっと深いまなざしで見ていてくださる神様のいつくしみのまなざしを味わう機会になりました。

 修道会に入会し、育った家庭環境や文化の違う会員と生活するようになりました。神様が呼び集められたと信じるお互い同士が支え合う共同生活の中でも、時にはその仲間を叱責したり、自分が理解できない言動を中傷したりする冷たい目線を感じる現実に出くわします。

 そんな時、父のまなざしを通して味わった御父のいつくしみを思い起こし、目に映る出来事や言動を超える一人一人の思いや人となりを理解できますようにという祈りを深めたいと願う日々です。