「わたしにできないことが、あなたにはできます。あなたにできないことが、わたしにはできます。力を合わせれば、きっと素晴らしいことができるでしょう」。インドで貧しい人々のために生涯を捧げたことで知られるマザー・テレサは、人々によくそう語っていた。
それはたとえば、こんな場面だ。彼女のもとを訪れる人の中には、「マザー、あなたはスラム街で人々に奉仕して偉大なことを成し遂げました。それに比べてわたしはただの主婦。毎日、食事の準備や掃除、洗濯ばかりで、何もできないのです」と愚痴を言う人もいた。そんなときマザーはすかさず、「何を言っているんですか。あなたがしている家族のための奉仕は、わたしがスラム街でしている貧しい人々のための奉仕とまったく同じくらい偉大なことです。わたしにできないことが、あなたにはできます。あなたにできないことが、わたしにはできます。力を合わせれば、きっと素晴らしいことができるでしょう」と言ってその人を諭したのだ。
わたしたちはつい、他人と自分を比較し、世間から評価される仕事をしている人をうらやましがってしまいがちだ。だが、神さまの目から見たとき、世間から評価される仕事も、かえりみられることの少ない家事や介護などの仕事も、その尊さにはまったく変わりがない。それぞれが自分に与えられた役割を忠実に果たすことで、わたしたちはこの世界を、よりよい世界、より美しい世界に変えてゆくことができるのだ。
神さまから与えられた役割の間に優劣はない。あの人にはあの人の役割があり、わたしにはわたしの役割がある。ただ、それだけのことだ。自分に与えられた役割を、日々、真心をこめて丁寧に果たしてゆきたい。