いつくしみ

中井 俊已

　神様ほどいつくしみ深い方はおられません。

神様がいかにいつくしみ深い父親であるかをイエス・キリストは、「放蕩息子」のたとえ話で教えられました。（ルカ15・11～32）

「放蕩息子」は、芥川龍之介が世界最高の短編小説だと激賞した話です。

登場人物は、父親と二人の息子。前半は、父親からもらった財産を放蕩の限りを尽くして使い果たした弟の話です。「もう息子と呼ばれる資格はありません」と、弟が罪を悔い改めて帰宅したとき、父親はすべてをゆるし、盛大に迎えいれます。「死んでいたのに生き返った。いなくなっていたのに見つかったのだ」と。

　後半は、弟への歓迎ぶりを妬んだ兄の話です。兄は、何年も父親に仕え忠実だったのに、父親は自分には何もしてくれなかったと怒りをもちます。その兄への父親のいつくみと諭しでこの話は終わります。

　「子よ、お前はいつもわたしと一緒にいる。わたしのものは全部お前のものだ」と。

　私たちは、この物語の登場人物の誰に似ているでしょうか。

　罪を犯して、悔い改め、すべてをゆるされた弟のようでしょうか。

　弟を妬み、父親に不満をぶつけた、傍目には善良な兄のほうでしょうか。私は、自分自身は両方に似ていると思います。

　私も弟のように、多くの罪を犯し、その度に神様にゆるされてきました。

　また、兄のようにまっとうな生活を送ってはいますが、人を羨んだり、神様に不平不満を言いたくなったりすることもあります。

　ただ、神様は、この父親に倣いなさいと言われている気がします。

　自分と同じように、家族や身近な人も不完全で、間違いもあり罪を犯すこともあるでしょう。

　神様は、そのような人に、いつくしみの心をもつように望まれているのです。