▲をクリックすると音声で聞こえます。

気づき

末盛 千枝子

今日の心の糧イメージ

 息子が3週間ぶりに退院してきました。今回はこのような時代なので、届け物があっても、本人には会えないという、なんともやりきれない感じでした。

 でも、先週のこと、腸の検査があるというので、X線の部屋にベッドごと降りてきていました。せっかくなので、終わるまで待っていようと思い、廊下で待っていました。やがて看護師さんがベッドをX線の部屋に入れ、息子を乗せて出てきました。それで、このときとばかりに、「大変だったね、大丈夫?」と声をかけました。すると、見たこともないほど、嬉しそうな顔を向けてくれたのです。本当に嬉しく思いました。

 その時、幸せとはこういうことだと心から思ったのです。彼は難病を持ち、しかも、スポーツの時の怪我で、20代後半から車椅子生活になり、20年経ちました。最近は入退院を繰り返す生活になりました。

 それでも彼は本当に健気にその状態を受け入れて、嘆いたり、人を羨んだりすることがないのです。なんて素敵なんだろうと思うこともあるのに、先日のように、母親として、本当に幸せなんだと気がつかなかったのです。前から知っているつもりだったのに、実感を持って幸せだと思わなかったのです。

 幸せとはきっと、このようにごく小さなことなのではないかとやっと気がついたのです。そして、この幸せは、私の場合には、困難を抱えた息子といればこその幸せでした。あの瞬間のことは忘れられません。

 きっと、人はいろいろ難しいことを抱えて生きていて、だからこそ、その人その人によって与えられる幸せは違うのでしょう。でも、少なくともそれぞれに与えられるそういう小さな幸せの瞬間を見逃さないようにしたいと思うのです。