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気づき

松尾 太 神父

今日の心の糧イメージ

 小学校の子どもたちと遊んでいた時のことです。ある子が、ふと空を見上げて、「あっ」と声を上げました。そのまなざしを追っていくと、空にうっすらと月が浮かんでいました。もうじき消え入りそうな、頼りない感じです。その子は、それっきり、遊びに戻っていきましたが、当たり前すぎてあまり意識されないものが色々あるということに、あらためて気づきをもらいました。月だけでなく、空気も、人とのつながりも、天使も、神様も、いつもわたしたちのそばにいるのに、まるでいないかのように感じられることがしばしばです。

 またある日、汗をかいたので、ちょっとマスクを外して顔を拭おうとしていると、ひとりの1年生の子がやって来て、わたしの顔をのぞき込みました。そして、発した一言が、「ふーん、そんな顔だったんだ!」

 その子は、入学してもう随分経ってから、その時初めてマスクなしのわたしの顔を見たのでした。そのことに気づいたとたん、その子が顔もよく知らない人を「しんぷさま」と呼び、信頼してくれていたということが、なんだか突然奇跡のように感じました。「見ないのに信じる人は幸い」というヨハネ福音書の言葉が響いてきました。(20・29)

 見えないウイルスに振り回されっぱなしのこの1年を過ごしたわたしたちは、信じて前に歩み続けることができるでしょうか。不安は拭いきれません。それでもなお、見えないものを恐れるよりも、いつもそばにいてくれる誰かをとおして信じ続けるから、子どもたちは、あんなに伸びのびと成長していけるのだろうと思います。子どもたちの瞳の輝きを見るたびに、信じる力は滅びないという真実にはっとさせられます。