▲をクリックすると音声で聞こえます。

約束

松浦 信行 神父

今日の心の糧イメージ

 私の本棚を見ると、20年ぐらい前に当時の高校3年生と一緒に作った、評論集が3冊並んでいます。

 その授業は、まず生徒の好きなことを調べ、それをみんなの前で発表し、それに対して私がコメントするというものでした。そして各自、発表する事柄をまとめ、それをレジュメとしてみんなに配り、後々それらをまとめて評論集にするといった授業でした。

 はじめに生徒と約束をしました。1年がかりで、準備し発表すること。発表しなかったら宗教の単位をあげることができないこと。そして、他人の発表の時は騒がないこと。

 みんなは好きなことを調べ始めました。お菓子のポッキーの起源について、美容について、ケネディーについて、女性の働き方について、宇宙開発について、ダイエットについてなどなど。

 すべてのものが宗教の時間の教材になり、みんなも熱心に取り組んでくれました。

 ところが、1年も終わる頃、一つの問題が起こりました。それは5人の生徒がレポート未提出だったのです。やかましく言い続けたのですが、提出しません。生徒との約束は「提出しなかったら、単位をあげるわけにはいかない。どんなものでも提出しなさい」ということでした。

 見て見ぬふりをするのが良いのか、それとも、約束通り大人げなく単位をあげない方が良いのかと悩んだ結果、単位をあげないことにしました。

 高校3年生ですから、もうすでに大学の推薦入学に合格している生徒もいました。慌てたのが学年主任の先生です。生徒を呼び出し、強制的にレポートを出させ、単位をあげることになったのです。

 人と人との信頼の約束のこの体験は、ブーメランのように私に迫ってきて、私に襟を正させます。