私は以前、英文学科で勉強をした時期がある。英国の詩人、ワーズワースやシェリーなどの詩を平野先生から1年間学んだ。平野先生は廊下を歩く時も、英語の単語帳を暗記しながら歩いているほど英語が大好きで、「生まれ変わっても英語を勉強したい」とおっしゃっていた。先生は、分厚いメガネをかけていて、歩くときでも英語を暗記されるので、奥さんとすれ違ってもわからなかったというエピソードがある。
先生は大学時代、名古屋で過ごされた。その4年間で、先生はすっかり名古屋なまりになってしまった。英語もそうだ。ライブラリーをリャーブラリーと発音される。
時には、イギリスの詩を翻訳し、朗読してくださって、その時のお声も昨日のことのように覚えている。
ところで、私の特技は、その方がおっしゃった発音の通りに九官鳥のように繰り返すことができることだ。平野先生に「お名ミャーは?」と聞かれたので、ホリタエコと言わず、「ホリ・ティヤァーコです」と答えたら、「あなた名古屋出身ですか?」と聞かれたが、私は米沢出身だった。ある時、先生は、第2次世界大戦の時の話をされ、私は「ディヤーニジセキャーテャァーセンですか」と言ったところ、「うまいですなあ」と先生からほめられ、講義の後、研究室に呼ばれた。
天井まで英文学の本があり、中ぐらいの本棚にある詩の本をゴソッと取ると、お菓子の缶が出てきて、チョコレートをたくさんいただいた。
私は平野先生にいただいたチョコレートを頬張りながら、ひそかに先生に約束したことがある。「私も、先生のように夢中になれるものを必ず見つけます」と。
そして今胸を張って言える。「平野先生、私は『聖書』に夢中です!」