20年ほど前、私がいた教会にひろ君という中学生がいました。結構いたずらっ子で、学校では乱暴なところがあると言われていました。
ある年のクリスマスのころでした。彼は、学校からの帰りがけ、いつも寄り道しながら家へとたどり着くのですが、その日、普段は何もないところに、段ボール箱が落ちているのに気が付きました。
何が落ちているのだろうと近寄り、ふたを開けて見ると、可愛い生まれたばかりの子猫が中に入っていました。捨て猫でした。しばらくその子猫を見つめて離れようとしたとき、子猫が悲しそうになくのです。
仕方なく家に連れ帰り、自分の部屋にかくしたのですが、すぐに母親に見つかってしまいました。「お願い。僕が面倒を見るから。飼っていい?」と母親に頼みました。案の定、母親は駄目の一点張りです。でもいつもと違って、熱心に頼んだせいか、母親も根負けしてしまいました。「面倒見なくなったら、すぐに保健所に連れて行くから」との条件で。
それからです。ひろ君の生活は変わりました。朝寝坊だったひろ君は、一番に起きて、すぐに猫のところへと行きます。学校でも授業が終わると寄り道せずに、すぐに家に帰ります。そしてその後、なぜか性格も優しくなっていきます。
「あの子には、外からもっとしっかりしなさいというよりも、生き物を育てる体験が必要だったのですね」と、彼の母親が私に語ってくれました。
いつもは、自分中心の生活をしている人間も、子猫のような小さな命を育てる心に目覚めたとき、その人の心の奥にある優しさが引き出されるのです。
彼の心にクリスマスの愛が宿ったのかもしれません。