イソップの話の中に有名な「北風と太陽」の話があります。北風の力ずくの業が、人々にマントを握らせ、太陽の暖かな光が、自然とマントを脱がせてしまうという話です。私の知っている養護施設の施設長シスターも、同じことを体験しました。
このシスター、とってもやり手で、ブルドーザーとまで言われていました。なんでもこなし、いろいろなところに気が付くので、さぞかし施設はきっちりとしていそうなものですが、不思議といつも何かしらのごたごたがあるのです。
それでもこのシスター、何とか施設を盛り立てようと頑張っていました。ところが、疲れがたまったある夜のこと、仕事を思い出し、施設の四階にあった修道院から一階の事務所に行く途中、階段を踏み外して転げ落ちてしまったのです。すぐに救急車が呼ばれ、病院に運ばれましたが、腕を骨折してしまったのです。
翌朝、骨折した手が痛くて、職員室に入ったこのシスターは皆に「すみません。骨折してしまいました。痛くて業務ができません。皆で支えあって1週間ほど乗り切ってくださいませんか?私は4階で寝ています。」そうアナウンスして、私がいなくても大丈夫だろうかと心配しながらも自室に引き上げました。
ところが、そのアナウンスで職員のみんなが、今までと違って、心を一つにして施設を盛り立て、子供たちも、しっかりと職員に従うようになったというのです。
後でこの施設長は、「今まで私は何をやってきたのでしょうか?私がいないほうが施設がうまくいくのです。」と落ち込んでしまいました。
「シスターの人柄が、皆をうまく自発的に動かしたのですよ」と、私は慰めながら、人間の心が一つになる力強さを感じたのでした。