夏の思い出

熊本 洋

今日の心の糧イメージ

 懐かしく思い出されるのは、仕事の関係で、6年間住みなれていた、南欧スペインの首都・マドリードの真夏の昼の静けさであります。

 標高655メートルの高原にあるマドリードですが、真夏になると、多くの市民は郊外の別荘に避暑し、マドリードの街はヒッソリとしてしまいます。その時期、街をうろついているのは、かつてそうであったように、今も恐らく、日本人観光客ではなかろうかと思ったりもします。

 だいたい、シエスタ(昼寝)好きのスペイン人、昼食を自宅でとり、その後ちょっとシエスタといった生活、今は少なくなったと思われますが、日本人には望むべくもない、スペインならではの余裕綽々の生活習慣であります。このシエスタによって、マドリードの昼の静けさは一層深まり、静寂の街となるのであります。

 beautifulな伝統として、このシエスタが末長く受け継がれていくことを願いたいものです。かつては、昼休みに店は堂々の閉店、夕方から午後の店開きとなったものですが、これも、遠い昔話となってしまったようです。すべてがスピードアップ、スローなスペインテンポは存在し得なくなったようです。

 ところで、これは、メキシコ滞在中の体験談ですが、真夏のある日、メキシコの街をテクテク調子よく歩いていたのですが、慣れない気候のため気分が悪くなり、ダウン!メキシコではメキシコ風の歩き方があること、つまり、その土地その土地に合った歩き方があることを知るとともに、現地の住民が、なぜゆっくりノロノロと歩くのかも悟った次第であります。

 「郷に入っては郷に従え」であります。

夏の思い出

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

 夏の思い出を一つ選ぶのは難しいのですが、さまざまな思い出の場面とともに私の心に残っている食べ物なら、一つ選ぶことができます。それは、カキ氷。

 たとえば、夏休みの初め、どこにも行かず、母と二人で茶の間で食べるイチゴシロップのカキ氷。けだるい時間ですが、普段学校や習い事に追われている私には、夏休みならではのゆっくりしたひとときでした。母が力を込めてかいてくれた氷に、舌べろが真っ赤になるイチゴシロップを瓶から注ぐと、シュワワッとカキ氷の山が崩れます。さじを入れると山の天辺がシロップの海に沈みます。小さいころは、カキ氷を「シャカシャカ」と呼んでいました。

 学生時代には、音楽や学校の合宿先で、よくカキ氷を食べました。たいていは、最終日のちょっとしたお遊びのときに、ラベンダーや紅芋などご当地の食材が入ったカキ氷をみんなで食べにいきました。一つの課題を終え、お互いの心が開かれた最終日のカキ氷は、実物以上に甘く美味しかったものです。

 最近印象に残ったカキ氷は、講演の仕事で訪れた沖縄でいただいた「ゼンザイ」です。沖縄では、黒糖入りのカキ氷に金時豆をどっさりのせたものをゼンザイといいます。

 「ぼくらは学校時代、放課後によくここにきました。部活の後で、しゃべりながら食べたもんです」

 案内してくださった地元新聞社の方が話しておられました。ちょうど講演旅行の最終日で、仕事の後の安心感の中、楽しい旅を語り合いながら、あちこちのカキ氷の話題で盛り上がったのでした。

 懐かしい思い出もありますが、カキ氷のように、思い出の場面を彩りながら過去と現在をつなげてくれるものもあります。ともにかけがえのないものだと思います。

[mp3:http://tomoshibi.or.jp/radio/2020/08/mp3/04.mp3:夏の思い出-三宮 麻由子]

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