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夏の思い出

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

 自然災害によって心に傷を負った子どもたちのために、阿蘇で行われる夏のキャンプに、わたしも宗教家として毎年参加している。プログラムの中で子どもたちに一番人気があるのは、大草原の中を馬の背に揺られて散策する「ホースライディング」だ。わたしも1度、子どもたちに混じって乗せてもらったことがある。

 馬の背にまたがってまず感じたのは、馬の温もりだった。命の温もりといってもいいかもしれない。その温もりに身を委ね、見渡す限り広がる緑の草原を、さわやかな高原の風に吹かれながら進んでゆく。はじめはちょっと怖い気もするが、怖さはすぐに消え、あとには馬への信頼だけが残る。まさに大自然と一体になる体験と言っていいだろう。牧場をぐるりと1周して戻って来る頃には、心も体もすっかりほぐされ、うきうきと歌いたくなるような喜びが心を満たしている。大自然とつながった喜びと言ってもいいかもしれない。馬の背中の温もりが、大自然の命と、わたしたちの命をつないでくれたのだ。

 大自然の命とつながって生きる。それは、人間の本来のあり方なのだろう。街中で暮らしていると、そのつながりが少しずつ薄れてゆく。自分が大自然の命に守られ、生かされていること、自分も大自然の命の一部であることを忘れてしまうのだ。その結果、わたしたちの心は喜びを失い、孤独や不安、恐れにむしばまれ、次第に力を失ってゆく。そんな気がする。すべての生き物の中に宿り、すべての生き物に力を与える、人間の想像をはるかに越えた大きな命。それを神と呼んでもいいだろう。夏のキャンプは、大自然との交わり、神との交わりを取り戻し、人間本来の姿を取り戻すための絶好のチャンスなのだ。