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夏の思い出

小林 陽子

今日の心の糧イメージ

 くっきり目に焼き付いている、あの空の青さ。はじめて見るサンゴ礁の白。そして、潮だまりに踊るように群れ泳いでいた、色とりどりの小さな熱帯魚たち! 大感動のあの夏。

 それというのも、わが家の小さな孫のおかげなのでした。

 小学2年生の夏、あの子は「大好きなM神父さま」が、湘南の教会からはるか遠い南の島に転任なさると聞いて、「そんなのイヤだ」と、神父さまご転任を拒否。

 どうしてもお別れしたくないというものですから、夏休みを待って、大阪南港から船に乗り、鹿児島、奄美大島を経由して、徳之島の母間の港に辿り着く、4泊5日の旅に出たのでした。

 神父さま追っかけ第1号です。

 それからの1週間、小さな彼は、神父さまが巡回教会を廻ってミサを立てられるのに侍者奉仕をしてお伴したり、泳ぎに行くのも、犬の散歩も神父さまと一緒。

 保護者の私の方は、すっかり子どもを神父さまにお任せして、同じ敷地の修道院のシスターとお喋りしたり、聖務のお祈りに加わって、半分修道女のような暮らしになりました。もちろん、サンゴ礁の海に潜りにも行きましたよ。

 さて、あっという間に帰る日がやってきました。神父さまが波止場まで送ってくださいます。車の中で歌ってくださったのが、寺島尚彦作詞作曲の「さとうきび畑」の歌でした。

 「ざわわー、ざわわー」と、風に揺れて鳴るサトウキビの音が心に染み入るようです。

 桟橋とデッキで、ちぎれるように手を振って振って、船は岸壁を離れてゆき、神父さまの姿は点になりました。

 型破りで個性派の神父さまは、子どもたちに絶大な人気がありました。

 今は天国にいらっしゃる神父さま。そちらでもギター片手に「ざわわー、ざわわー」と歌っていらっしゃるでしょうか。