夏に自動車を運転していると、熱い太陽の下、一生懸命働いている道路工事の方に出会います。「暑くて大変だなあ」と思いながら、若い頃は面白い体験をさせてもらったなあと思い出しています。
私は東京の学校に進学したのですが、その年は実家の京都に帰って、クラブ活動の合宿代を稼ぐためにアルバイトを考えていたのです。でもよいアルバイトはありませんでした。それで父に頼んで遠い親戚の工務店で働くようになりました。
はじめは木材の移動です。その後、一人の親方について、小学校の階段の踊り場の補修工事の助手をすることになりました。親方が空気ドリルでコンクリートを壊す中を、コンクリートの破片を掃除する仕事です。
順調に仕事が進んでいると思われたそのとき、スポッという音がして、空気ドリルのホースが暴れ始めました。ホースだけだと柔らかいのですが、端に鉄のねじがついていて、当たったら大けがだと、私はすぐその場から走って逃げてしまいました。そのとき親方が何かを言ったのですが、私には聞き取る余裕すらありませんでした。その後親方が空気ポンプのエンジンを切って、にこにこしながら私のところにやってきて、「お前逃げるの速いなあ」と言ったのです。実は圧縮空気を送るホースとドリルとの接合部が抜けて、ホースがまるで蛇のように暴れたのです。親方は大声で空気ポンプのスイッチを切れと叫んだのですが、私はその場から逃げてしまっていたのです。親方を見捨てた、そんな気持ちが私の中に起こりました。
それから一ヶ月、あの時、叱るのではなく笑って見逃してくれた親方の優しい心が深く身に染み、人間として大切なものを感じることができた、貴重な夏の思い出です。