函館郊外大沼に移住し、羊を数頭飼って暮らしています。その中で、ミミという母羊とその子、紋次郎の話をします。
紋次郎は3月の寒い朝に生まれました。ミミが生んだ次男だったので、紋次郎と名付けました。仔羊は通常3キログラムから5キログラムで生まれるのですが、紋次郎は2キログラムしかありませんでした。ミミが紋次郎を舐めただけで転がってしまいます。
紋次郎がぶるぶると震えだしました。低体温症です。すぐに身体を温めてあげないと死んでしまいます。
私は紋次郎を抱きかかえ羊小屋から離れたところにある山小屋に連れてくると、湯たんぽで温めた段ボール箱に入れました。
最初は母羊のミミから絞ったミルクを哺乳瓶に入れて、2、3日経つと羊用の粉ミルクを3時間から4時間ごとにあげます。
毎日、紋次郎をミミの所へ連れて行きました。しかし、紋次郎はなぜか母羊を怖がって逃げ惑うのです。
お腹が空いて、紋次郎が「べー。べー。」山小屋で鳴くと、羊小屋でミミが必ず「べーべー。」と応えるように鳴きます。
5月になり、元気に育った紋次郎を羊の群れに入れる時が来ました。
放牧日和のある日、私は広い牧草地ならば紋次郎も大丈夫だろうと羊の群れに入れました。ミミはわが子を見つけると、すぐに近くにやってきて一緒に草を食べ始めました。すると紋次郎の存在に気がついた群れのボス羊が走ってきました。
大変です。このままだとボス羊の頭突きを浴びてしまいます。
「紋次郎。危ない」私が叫びました。その瞬間です。ミミが紋次郎とボスの間に割って入ったのです。どんっ!。ミミのお腹が赤くなるほどの頭突きでした。
ミミ、偉い!
慕われていない、むしろ子どもに怖がられている母であっても、危険を顧みず子どもを守ってあげるなんて。