2018年、私は「浜松国際ピアノコンクール」の本選を聞きに行き、あることに気付きました。
入賞しなかった出場者たちが優勝者と何ら変わらない雄雄しさで次のコンサートをこなし、学びを続けているのです。一方優勝者も、まるで何事もなかったかのようにツアーに臨んでいるのです。
もちろん、優勝の喜びや、入賞できなかった残念さはあるでしょう。特に優勝者は、その賞品として多くの大チャンスを提供されるので、それに挑む心はいままでとは大きく違っているはずです。
しかし、演奏するという行動において、彼らの言動はそれまでとまったく変わらないかのように見えるのです。彼らをここまで冷静に保っているのは、何なのでしょう。
予選から本選へと聞き進むにつれ、私は出場者たちの心がどんどん静かになっていくのを感じました。アピールと競争による極限状態におかれることで、単に技術を磨くだけでなく、心を揺らさずひたすら前に進む態度を、彼らは身につけたのではないでしょうか。審査員方も、出場者は勝ち抜くほどに見る見る上達するとコメントしておられます。コンクールの本当の収穫は、順位よりも、こうした深いメンタル面での熟成なのでしょう。
私もピアノを演奏しますが、気持ちを揺らさず前に進み続けることは大変難しいと感じます。実際の演奏では、できない箇所を徹底的に分析して克服しながら、できる箇所にはしっかり自信を持って蓄積を重ね、音楽全体を深めていくという作業になります。これには、心の鍛錬が大変重要になるのです。
スポーツとも通じますが、この鍛錬ができると演奏はどんどん花開いていきます。私はこの感覚を人生にも応用し、着実に進み続けていこう、と考えたのでした。