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クリスマスのメッセージ

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

 私の父の話をします。父は明治44年生まれ、生きていれば、107歳になります。

 父は5歳の時に母親を病気で失い、母親の実家へ預けられます。学校を卒業すると、ビール会社に就職します。上司の世話で、母と結婚します。

 父は決心しました。「愛しい家族を守るぞ」

 ところが、第2次世界大戦がはじまります。父はすぐに戦争に駆り出されます。母は第一子を妊娠中でした。日本に残してきた妻が気がかりで、父は毎日手紙を書きました。戦場で長女出産の知らせを受けると、電報で名前を書いて送りました。

 幸いにも帰国することができ、2人目の子供も授かりました。しかし、戦争はまだ続いていました。空襲が激しくなり、リヤカーに荷物を載せて、30キロ以上もある疎開先まで2回も運びました。娘のために漸く手に入れたひな人形も運びました。

 しかし、疎開先で落ち着く暇もなく、再び出征しました。妻と幼い子供2人を残してです。

 戦争が終わり、父は奇跡的に家族のもとに帰って来ました。

 ビール会社に戻ると、朝早くから夜遅くまで働き詰めです。戦後生まれの私は、父の働く姿しか知りません。

 私が小学生のころには、世の中も落ち着き、クリスマスになると街にジングルベルの音楽が鳴り渡りました。しかし、父はクリスマスなど関係ないように忙しそうでした。

 クリスマスの日でした。夕方、今まで見たこともない大きなクリスマスケーキが我が家に届きました。私たち四人姉妹は、ケーキを囲んで大騒ぎです。甘いもの好きの母も嬉しそうでした。大切なクリスマスに一緒にいられない父からでした。

 「愛しているよ。私の家族。」

 父の声が聞こえるようでした。今でも、私はクリスマスが来るたびに思い出すのです。