平和というと、わたしは、原爆の被害と白血病で倒れても平和を祈り訴え続けた永井隆博士のことを思い出します。
一つのエピソードをご紹介します。病床の永井隆を奇跡の人ヘレン・ケラーが長崎までお見舞いに訪れたときのことです。
ヘレンはこのとき69歳、温かな笑みをうかべる婦人でした。
隆はベッドから横になったまま、ヘレンに手を差し伸べました。
ふたりの手がふれあったとき、隆は温かい愛情のようなものが一瞬、体へ流れこんだように感じたそうです。
ヘレンは言いました。
「わたしの心はすべて、今あなたの上に注がれています。」
この一言に、隆はヘレンの深く温かな愛情を感じました。
隆が家族を紹介すると、ヘレンはにっこりとしながら、幼い娘の茅乃のセーターに庭で手折った一輪のコスモスをさしました。
ヘレン・ケラーの訪問は、隆たち家族に心温まる平安のひとときと忘れられない思い出を残しました。
永井隆は、著書『いとし子よ』に書いています。
「本当の平和をもたらすのは、ややこしい会議や思想ではなく、ごく単純な愛の力による」
その通り。平和とは、永井隆やヘレン・ケラーのように、人と人が互いに愛し合うことでつくっていくものだと私も考えます。
同じようなことをマザー・テレサも考えていました。
ある時、「世界平和のために何をすればいいですか?」と尋ねられて、マザー・テレサは「家に帰って、家族サービスをしてあげなさい」と答えたそうです。
平和は、愛する心から生まれます。
まず身近な人を愛することから。温かい一言、ほほえみや親切、時間を割いて話を聞いてあげること。そんな小さなことから、心の平和は広がっていくのだと思います。