私の父は明治37年生まれ。先の戦争の時、何度か招集されて戦地へ行ったが、私の記憶する限り、戦地の話をほとんどしなかった。
衛生兵であったから、傷ついた人、亡くなった人の世話をしたであろうに・・・。
戦争について父がいったことばを覚えている。
「ミンコたちの時代はよかねえ。もう戦争はなかとじゃけん。日本は二度と戦争はせんと決めたとじゃけん。もしも父ちゃんが先に天国へ行くとしても、あがどんばこの世にのこして行くとしても、安心たいね。平和な世の中じゃけん」
いつまでもいつまでも平和が続くことを信じて父は帰天した。
子どもの頃、夕の祈りが終わり、寝床につく時、父母はいった。
「安心して眠ればよかよ。誰も襲いに来る者はおらんしね。父ちゃんと母ちゃんが見守っとるけんね。神さまはもっと大きか力で見守ってくれてるけんね。」
私は父と母がいる限り、絶対、安心と心強く思って眠りについたものだった。
後年、私が母になった時、子どもに対し一番心がけたことは、「お母さんがいる限り安心」と思ってもらえることだった。
私が母からもらった安心、つまり心の平和を、息子に伝えることであった。
親が子どもにのこしてやれる最大の財産は心の平和ではないかと年を重ねるにつれ、実感している。
心に平和をもっていなかったら、始終落ち着かない。誰かに何か悪いことをされるのではないかと疑うと夜もゆっくり眠れない。
世界の平和を誰もが願っていると思うが、まずは自分自身の心の平和、家族の平和、隣近所の平和、日本の平和、アジアの平和・・それらを日々願い続けている。