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母のぬくもり

片柳 弘史 神父

今日の心の糧イメージ

 ある幼稚園で、以前こんなことがあった。家庭の事情で児童養護施設に引き取られ、そこから幼稚園に通園している子どもが、冬休みを終わって幼稚園に戻ったときのことだ。「冬休みはどうしていたの」と先生が聞くと、その子はうれしそうに「お母さんが迎えに来て、ディズニーランドに連れて行ってくれた」と言った。ところが後日、先生が施設の方に「よかったですね」とそのことを話すと、施設の方は怪訝な顔で、「そんなことはなかったはずです」と答えたとのこと。施設で過ごすお正月に、きっとその子はお母さんが迎えに来てくれるのを夢見ていたのだろう。その夢が、子どもの心の中で現実になったのかもしれない。

 子どもたちは、親の愛情をそれほどに待ち望んでいる。たとえどんなに裏切られても、親の愛を固く信じ、親を悪く言うことは決してない。そんな子どもたちの姿を見ると、わたしたちは子どもを愛さずにいられなくなる。親の代わりにはなれなくても、自分に出来る限りのことをしてあげたいと思うのだ。

 親からの愛を十分に受けられない子どもは、ときに、先生の気を引こうとして他の子に意地悪をしたり、ものを隠したりすることもある。そんなときこそ、先生の腕の見せどころだ。本当の問題は愛への飢えだと気づいて、子どもの寂しさにしっかり寄り添い、温かな声かけをしてゆくうちに、問題行動はしだいに収まってゆくことが多い。

 子どもをあるがままに受け入れ、温かく包み込む神さまの愛は、親の心に宿り、親を通して子どもに注がれる。もし親が愛を注げない場合でも、神さまの愛は子どもを取り囲む大人たちの心に宿り、子どもに注がれる。心に宿った愛を、子どもたちに惜しみなく注いでゆきたい。