私は実家近くに住んでいますが、母が来ると冷蔵庫が大変なことになります。大袋一杯のおにぎり、手作りのおかず、果物、野菜と私が助かりそうなものをどっさりもってきてくれるからです。「そんな、いいのに」と言いながらも、買い物が困難な私はつい甘えて受け取ってしまいます。
親子の間ですからもちろん、喧嘩もすれば考えが違うこともあります。でも、そんなことは私たちの絆には影響しないようです。
数年前、私は一生にかかわる試練に見舞われました。心がこわれ、フラッシュバックのため突然泣き出すような状態が時折襲ってきます。そのとき、母は「おいで」と言って、私を強く抱きしめてくれました。何度でも、泣き止むまで抱きしめたままでした。こんな年になって恥ずかしいと思いながらも、私は母のハグを必要としていて、離れることができませんでした。
あのときの母のハグには、小さいころに抱っこしてくれたのと同じ温もりがあったと思います。盲学校までの通学がきつくて歩けなくなった私を抱いて混雑する駅の階段を上ってくれた手、寝る前の一遊びでくすぐりっこしてくれた手、その手が、大人になって泣きじゃくる私をしっかり抱きしめてくれました。そして母は、「何もしてあげられなくてごめんね」と一緒に泣いてくれるのでした。
おかげでいまは、母ともジョークを交わせるほど立ち直り、フラッシュバックもほとんど起きなくなりました。母の温もりが私の心を救ってくれたのです。
子どもにとって、母は聖母なのだと思います。私は母の子に生まれたことを感謝しつつ、世界の子どもたちが、血のつながりに関係なく、良き母になってくれる存在に恵まれるよう祈っています。