人の幸せを左右するものの一つに「父性愛」があります。父の子供への愛情は母のぬくもりとは違うようです。
幼稚園時代、喧嘩で穴におとされ傷ついた私を救い出し、背負って家に帰る時の父のぬくもりがただ一つの想い出です。
さて人の幸せは、どんな時代に、どこで誕生したかが大きな影響を与えています。私が生まれた年に2・26事件という陸軍の反乱がありました。私の誕生地は台湾の高雄で、当時、日本海軍の基地があり、東南アジア地区の活動基点のようでした。
戦後、父は戦犯となり、家族は父の郷里・新潟の山地に疎開していました。その後色々ありましたが、私も青春時代を終え、社会人として生きていました。悩み深い事件に巻き込まれた時は、激動の時代を生き抜いた父親に相談するのですが、いつも最初に、自分ではどうしたいのか、と質問してくるのです。自分の考え方は言いません。そのことが不満でしたが、今、思えば息子の意見を尊重してくれていたのです。父が自分で幾つかの答えを既に準備している時は、相談すると、どの答えが好きか、と聞いてきます。息子の考え方をいつも優先して聞いていたのです。当時は、そんな煮え切らない父親が嫌いでしたが、いまにして思えば、息子の自由意志を相当我慢しながら聴いていたのだなあと、しみじみ感謝しています。
母は戦後、40代で、父は戦後を生き抜いて87才で亡くなります。海軍の職業軍人として幾多の海戦を生き抜き、愛する息子には、自分の意見を押し付けず、いつも息子の意志を尊重してくれた父親、その愛情は母のぬくもりとは違うものでした。これが父性愛というものでしょう。
凛とした厳しい父親の愛情を思い出し、しみじみと良き父親に恵まれた私を神様に感謝しています。