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父のぬくもり

今井 美沙子

今日の心の糧イメージ

 私の父はやさしいやさしい人であった。

 私は父から大声で叱られたり、ましてや叩かれたことなど1度もない。

 他のきょうだいも同じである。

 寒い冬には、「ミンコよい、父ちゃんとこに来いよ」と自分のふとんの中に私を招き入れ、自分の太ももの間に私の足をはさんで暖めてくれた。父は体温の高い方だったので、父の太ももはあたたかく、安心してすぐに眠りについた。

 父は五島の民話を子どもたちによく話してくれた。磯女の話とか、行方不明の我が子を探すうちに鳥になってしまい、「ヨヒトカッポ」と鳴く鳥の話とか・・・。

 父をはさんで右と左に私と弟が寝ていた。

 私は父が自分の方を向いて欲しいので、父の顔を自分の方へ向けた。するとすかさず弟の小さい手が伸びて来て、父の顔を自分の方へ向けてしまうのだった。

 父は「顔がふたつ欲しかね」と嬉しそうに笑って、右と左、交互に顔を向けるのだった。

 父のぬくもりの思い出を書くときりがないが、私が父のことで一番心に残るのは、母と少し縁のあった娘が未婚のままみごもった時のことである。

 父は母に「生まれてくる子は自分の子どもとして育てよう。あん娘は身ふたつになったら、誰かよか人の嫁さんにしてもらおう」といったという。

 私が生まれる前の話だというが、母が繰り返し、父のあたたかさ、やさしさを話してくれたので、自分がその場にいたかのように思う。

 幸いなことにゆかりの娘は、おなかの子どもと一緒でもいいという心の広い人と結婚した。その人は後から生まれた自分の子どもたちと全く差別しなかった。

 その人もぬくもりに満ちた父であった。