私が30歳を過ぎた頃、突然、父から「もっと子どもであるお前たちに関わってあげればよかった」と言われました。あまりにも唐突な言葉に、私は一瞬、面食らってしまいました。と、同時に、にが笑いしながら、「今頃、そんなことを言っても遅いよ」と返事したように記憶しています。
私たち子どもにとても優しかった父は、よく近くのお寺に散歩に連れて行ってくれました。一緒に歩きながら、いろんなことを話しました。父が今まで体験してきたこと、私の学校のこと、友だちのことなどいろいろです。
時には、道端に落ちていたぎんなんを集めたり、辺りに生えていた植物の話題になったり、お寺の高台に上って、街を見下ろしたり、といろんな体験をさせてくれました。そして、この父と過ごす夕暮れののんびりとした暖かいひとときが私はとても好きでした。
いつも何かを考えていて、それでいて、早急に直接何かを言うわけでなく、いつもゆったりと私たちに接してくれた父の姿に、ぬくもりを感じます。
このような父の姿は、私に多くのことを教えてくれたのだと思います。いつも思慮深くあること、相手の大切さを認めながら、ゆったりと人と接すること、いろんな体験を通して、相手に教えていくことなどです。
すぐに何かを始めたり、相手をせかしたりすることはありませんでしたが、温かい目とゆったりとした対応で、私たち子どもの成長をそっと眺めつづけてくれていたのでしょう。目立たないことかもしれませんが、目立たないぬくもりを父は持っていたのだと思います。
実は、このようなぬくもりを父である神さまもお持ちなのだと思います。温かい目で、いつも私たちを眺めつづけておられるぬくもりです。