私の父は細やかな神経をもった優しい人でした。
思い出はたくさんあります。小学生の時に遠足から帰った妹と私が、足が痛いと泣くと、私たちを床につかせ、眠るまで代わる代わる足をさすってくれたことがあります。だんだんと痛みがとれていくのが不思議でした。
子供の頃の私は、夜中にふと目を覚ますとよく父を起こしました。父は温かいミルクに卵を落とした甘い飲み物を作ってくれます。台所でカチャカチャと音がするのを聞いていると安心していつのまにか眠ってしまいます。「美味しいよ」と言ってそっと起こしてくれる父に「眠いから、いい」と言うこともありましたが、気を悪くせずそのまま眠らせてくれます。
父は芸術家肌の人で、版画を彫ったり詩を書いたりするのが好きでした。私たちが住んでいた北海道には「サイロ」という子供の詩の冊子が定期的に発行されていました。父と一緒に「サイロ」を読んで、好きな詩を批評しあうのは素敵なひと時でした。私が書く詩も父はよく褒めてくれたので認められた気がしたものです。
高校時代、学校帰りに駅で偶然父に会うと喫茶店でコーヒーを飲みながら友達のことや、本のことなどをいろいろと話しました。楽しそうに聞いてくれた父の柔らかな笑顔を思い出します。
父のぬくもり、優しさ、素晴らしさは、多くの挫折から生まれたものだと私は知っていました。普通の父親のように社会に適応できていなかったからです。しかし私は父を尊敬しており、大好きでした。
ずっとのちに私が大人になってから大きな試練にあった時、父はもう天国にいましたが、その愛は「生きなさい」と力強く私を支えてくれたのです。