わたしの支え

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

 気がつかないようでも、人は様々なものに支えられて日々を生きているのだと思う。人には心という厄介なものがあって、助けなしには、とても一人では持ち運べないのである。最も大きな支えは、やはり「人」だ。自分を理解してくれる家族や恋人、友人たち。幼い子どもや孫も、生きる張り合いになってくれる。また、ペットや音楽に癒されたり、過去の思い出や将来の夢に支えられる人もいるだろう。人は沢山の心の支えを必要としているのである。

 昔、或る年長の詩人から、1枚のはがきを頂いた時のことを憶えている。はがきには、御自分が高齢になられた感慨と私の詩を御覧になったこと、そして最後に、「このような詩が読めるなら、生きていたいと思いました」と書かれていた。私は驚き、恐縮してしまった。自分などの詩が、本当に誰かの生きる希望になり、生きる支えになったのだろうか。そのままを真に受けることは出来なかったが、それでも「生きていたいと思いました」という言葉は、温かい雨のように私の中に降り注ぎ、滲みていった。

 私は生まれ変わったように詩を書き始めた。やはり、その言葉は大きな励ましと、支えになったのである。つらい時には、その言葉を思い出し、わざわざはがきを下さった先輩の優しさを思い出した。

 当時は若く未熟で、高齢になった人の言葉の本当の重さは、まだ分かっていなかっただろう。ただ、誰かの長い人生で、一日の喜びとなるような言葉の仕事をしたいと思っていた。そして、その仕事をすることで、書き手も支えられ、生きていけるのだとも思っていた。だがそれがとても難しい仕事だと悟るのは、ずっと先のことであった。

わたしの支え

熊本 洋

今日の心の糧イメージ

 何事にも支えが必要です。建築は、まず、それを支えるしっかりした土台の建設から始まります。強靭な土台があってこそ、揺るぎなき建築が可能となります。

 東京スカイツリーは、高さ世界一で、634メートルです。それを支える土台は、深さ50メートル、地上部分の重さは41000トンもあると言われています。注目されるのは、その土台の深さが50メートルにも及ぶということで、強靭な土台が必要なことを如実に物語っています。ちなみに、かつて世界一を誇った、パリのエッフェル塔の高さは、東京スカイツリーのおよそ半分の、324メートル、本体の重さはおよそ6分の1の7300トンということです。

 また、航空機は、空港という土台から離陸、飛び立ちますが、飛行中は土台代わりに、強力なエンジンが飛行物体を支えています。

 この実態をわきまえた上で、目に見えない人間の心に目を転じてみますと、迷い、悩みの多い人間、その心は、時折、土台を失い、ある意味で宙に浮いてしまっている状態にあることがあります。そのように宙に浮いた心を如何に穏やかに沈め支えていくか、心理学や宗教によって、その手段が考案されていますが、いずれにせよ、人間ならではの理性、この理性から生まれる確信、信念、信仰こそが人間の心を支えることができると言えます。

 こう考える瞬間、わたしを考える、もう一人のわたしが心の中に 浮かんできます。この別のわたしは、希望や失望をもたらし、情緒不安定が懸念されます。願わくは、あくまで、本来のわたしが常に祈りのうちに希望に満ち、意気揚々のわたしであらんことを!と、こう願わずにはおれません。


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