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わたしのクリスマス

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

買い物客で賑わう街、教会に集まる人々の静かな祈り・・様々なクリスマスの光景が甦る。思い出に残っている人々もいる。

 夫がアメリカの大学で研究職に就き、家族で滞在していたことがある。アメリカの職場らしく、夫が所属する研究室でも、家族ぐるみのホームパーティがよくひらかれていた。

 或る年のクリスマスのこと。料理を1品ずつ持ち寄るランチパーティーが計画され、場所は大学医学部の建物の1室になった。そしてその部屋に、全く別の研究室に属する研究者が1人いたのである。

 彼は薬品の染みのついた白衣を着たまま何気なく、私が作った太巻き寿司を食べていた。同僚たちの好きなビーフに、卵や野菜を彩り良く巻いたもので、かなりの量があったが、見る見るうちに減っていく。彼は気が済むまで食べ、更に白衣のポケットにさりげなく太巻きのいくつかを入れて、幸福そうに去って行った。聞けば、彼は日本食が大好きなので、日本人がいて日本食が食べられそうなパーティにやって来たのだとのこと。初めは呆れていた私だったが、部外者を受け入れて、いつになく楽しそうな同僚たちの姿に、はっとした。これこそクリスマスなのだった。

 クリスマスには、心をあける特別なことが起こる。お生まれになった幼子イエスに会いに来たのは、遥か異国の博士たちだったではないか。思いがけない人々の心と出会い、私たち自身もひらかれていく時なのだ。普段は業績を競い合う研究室の間にある高い壁は、この日は存在しなかった。自分の料理を喜んでもらえて、実は私も嬉しく、心がひらかれるように感じていたのだ。彼は少し風変わりな方法で、クリスマスのよき贈り物を私たちに置いていってくれたのだった。