彼は薬品の染みのついた白衣を着たまま何気なく、私が作った太巻き寿司を食べていた。同僚たちの好きなビーフに、卵や野菜を彩り良く巻いたもので、かなりの量があったが、見る見るうちに減っていく。彼は気が済むまで食べ、更に白衣のポケットにさりげなく太巻きのいくつかを入れて、幸福そうに去って行った。聞けば、彼は日本食が大好きなので、日本人がいて日本食が食べられそうなパーティにやって来たのだとのこと。初めは呆れていた私だったが、部外者を受け入れて、いつになく楽しそうな同僚たちの姿に、はっとした。これこそクリスマスなのだった。
クリスマスには、心をあける特別なことが起こる。お生まれになった幼子イエスに会いに来たのは、遥か異国の博士たちだったではないか。思いがけない人々の心と出会い、私たち自身もひらかれていく時なのだ。普段は業績を競い合う研究室の間にある高い壁は、この日は存在しなかった。自分の料理を喜んでもらえて、実は私も嬉しく、心がひらかれるように感じていたのだ。彼は少し風変わりな方法で、クリスマスのよき贈り物を私たちに置いていってくれたのだった。