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自然とわたし

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

私はクレソンというほろ苦い野菜が好きで、居間の隅にガラスケースを置いて栽培している。きれいな水に浸したスポンジに種を播き、小さな芽の成長を見守るのは楽しい。ほっそりとしていた茎が逞しくなり、沢山の葉をつけ、やがて深緑の小さな森が水辺に生まれる。

ただそこに緑の植物が育っているだけで、その一画の空気は清くなり、明るく澄んでいくようだ。水と陽の光だけで育つ慎ましい植物が、そんな力を持っているのである。

人が孤独であったり、つらい体験をしたりして心が傷ついている時、動物を飼ったり、植物を育てたりすると、癒されることがある。私も、悩み疲れてしまったような日、植木や花々の世話をすると、心が慰められ、潤ってくることがある。そんな時は、私自身の中で萎れそうになっている花々もまた水を注がれ、光を与えられて、ほんの少し生き返るのかもしれない。草花を育て生かしているつもりで、いつの間にか自分が生かされているのである。

自然と共にいる時、私たちは人間も自然の一部であることを思い出す。自分を忘れ、自然の中の放つ明るい光に触れていると、素朴な喜びが湧いて来る。それは私たちもまた光を宿す生き物だからだ。人の中にある光は、自然の光と呼び合い、またお互いを照らし合う。私を生かしてくれるのは、そんな風に助け合って生きる生命たちだ。そして一茎の草の中に、そして人の中にあって、静かに照らしてくれる清らかな光である。