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目覚める

松浦 信行 神父

今日の心の糧イメージ

先日、23年前に教えた高校の教え子と出会いました。

彼女が高3の秋、お父さんがガンで倒れ、春まで持たないと言われながらも、23年間の闘病生活を送っておられました。そのお父さんが亡くなられ、その思いを誰かに話したいと連絡を受け、会うことになったのです。お父さんの話から始まり、次第にお葬式のことになりました。

教え子には、8歳の男の子と、幼稚園の年長の女の子がいました。そして、葬式のその日に娘さんの通っている幼稚園で、ハロウィンの行事があったのです。その女の子は、黒服の魔女役として選ばれ、何週間も前から、その仮装行列をとっても楽しみにしていて、魔女の服を着ては、こんな風にするのよとお母さんに語っていたのです。

教え子も、何とかハロウィンを終えてからお葬式ができないものかと考えました。でも、どう考えても無理だったのです。そのことを娘さんに告げると、案の定、娘さんはだだをこね始めました。「私がとっても楽しみにしていたハロウィンに出られないなんて考えられない」と、だんだん興奮していくのです。

教え子もそのご主人も、何とかできないものかと思案に暮れたとき、何を思ったのか、いつも妹の威勢に負けてばかりのお兄ちゃんが妹の前に進み出て、じっと妹の顔を見て「あのな、ハロウィンは来年もあるんやで。でもな、おじいちゃんの葬式は、明日しかないんや!」と、諭したのです。

妹はそのとき、はっとした顔をして、「おじいちゃんのお葬式は明日しかないの?」「そう、明日しかないんや。」それで、妹は急におとなしくなり、「おじいちゃんのお葬式にわたし行く」と、皆に告げたのでした。

小さな子供たちが、命の関わりの大切さに目覚めた瞬間でした。