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目覚める

堀 妙子

今日の心の糧イメージ

センチュリープラントという花がある。この花はおよそ100年に1度しか咲かない。その上、花が咲いた瞬間に根元から腐り、養分となって花に向かって流れていく。そして、花が咲き誇った瞬間に死ぬ。

この花は十字架上のイエスのようだ。十字架上で死去した瞬間から、死せる体を養分にして復活に向かっていくように思えるからだ。

この花の存在を知った時、私にとって今までの人生は、何1つ無駄なことはなかったと思えた。これからが目覚める時だと信じた。

私は女子大を卒業後、何をしてきたのだろう。

小学校の教師、デザイナーの秘書、群衆を多く使う演出家のスタジオに入所し、群衆のひとりとして舞台に出演。その後、体を壊し、実家に戻り、子どものための劇団主宰。再び上京し、カトリックの出版社の編集者、母の病気により、出版社を辞め、長年、母の介護も経験した。その間、神学部へ入学、卒業し、庭掃除や皿洗いのアルバイトもした。

今はカトリックの月刊誌の連載、ラジオ原稿と絵本の執筆を続けるとともに、頚椎損傷で頭以外は動かすことのできない方の介助をしている。今、私は主に執筆と、介助の仕事で生活費を稼いでいる。

私自身、年を重ね、若さにあふれ、何をしても生きていける時期は過ぎ去った。そんな時、このセンチュリープラントに出会った。

センチュリープラントのように 100年間も風雪に耐え、花が咲いた瞬間に根元から腐り、花に養分を流す。

この花の存在を知った時、遅すぎる出発だけれど、私が今まで蓄積してきた養分のすべてをこの命にこめ、言葉の花に向かって注いでいこうと思った。

そこに、わずかでもいいから、イエスが死に向かう時の混じりっけのない愛があればと祈る。