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愛でる

堀 妙子

今日の心の糧イメージ

職場に近い6畳一間の白い一軒家に、住んでいたことがある。毎日、朝、昼、晩と教会の鐘の音が聞こえた。そこでは持ち物を最小限にして、簡素に暮らした。小さな家の奥の窓を開けると土手があり、小さな梅の木があった。

ある年、梅の木の花が咲く頃に不思議な体験をした。梅の木に可愛いうぐいすが来て、「ホーホケキョ」と鳴いた。うぐいすの鳴く声がとても澄み渡って心地よかったので、グレゴリオという名前をつけた。「グレゴリオ~」と呼ぶと、うぐいすは自分の鳴き声を愛でられたのがわかるのか、すぐにまた、「ホーホケキョ、ケキョケキョ」と鳴いた。「グレゴリオ~」とまた呼ぶと、梅の木から、私の住んでいる小さな家の窓のところすれすれに飛んできて、翼を広げ、ブーメランのように梅の木に戻った。

この季節に母が上京し、私の小さな家に泊まった。朝、グレゴリオが「ホーホケキョ」と鳴いた。母が「あら、うぐいすが鳴いている」と言ったので、窓を開け、母と一緒に梅の木に止まっているうぐいすを見た。私は「グレゴリオ~」と呼んだ。すると窓すれすれに翼を広げて飛んできて、梅の木に戻った。母は「あのうぐいすはあなたのことがわかるのね」と言った。また「グレゴリオ~」と呼ぶと、またブーメランのように飛んできて、梅の木に戻った。

グレゴリオは、土手の後ろの古い建物が取り壊され、新しいマンションが建つことになり、解体工事が始まると来なくなった。しかし、母と二人で見たグレゴリオとの出来事は、神さまが造ってくださった植物や鳥を純粋に愛でたときに現れる、マリアさまの心だったのかも知れない。

「マリアさまの こころ それは うぐいす」という歌があるように。