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愛でる

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

北の大地に暮らし始めて7年目の春を迎えました。3月に雪がとけ地面がのぞくと、木々はほんのり赤く染まります。ああ、春がきたのだと私は実感し、嬉しくなります。

早春の森を散策していると、枯れ木に白い花が咲き、満開になっていました。良い香りもします。北こぶしです。桜のように華やかではありませんが、北海道の人たちが大好きな理由が分かります。

北こぶしは、春を告げる花なのです。私も北海道に暮らすようになって、大好きになりました。北こぶしは木の花で、1年おき、あるいは2年おきに満開になります。それ故に森の中で見つけると、私はつい声をかけます。

「頑張って咲いたね。ありがとう」

私の母は水仙の花が大好きでした。1月生まれの母は、誕生日の頃、庭に咲く凛としたこの花を見るたびに、しっかり生きなければと思ったそうです。女学校の絵の時間にも水仙の花を描き、すごく褒められたのよ、と得意そうに話していました。

私の父は椿の花が好きでした。出張で地方に出かけると珍しい椿を見つけては買ってきました。生垣にも椿を植え大事に育てました。春になるとピンクの花が満開になったものです。

新潟で生まれ育った姑は、アジサイの花が好きでした。家の前にアジサイの鉢植えをいく鉢も育てていました。

父も母も姑も、20年以上前に亡くなりました。

しかし、春一番に咲く水仙を見ると、優しかった母の姿と声を思い出します。庭や生垣に椿の花が咲きだすと、父の背中を思い出します。様々な色のアジサイを見ると、大きなじょうろでアジサイに水をやっていた小柄な姑の姿を思い出すのです。

今年も北こぶしの咲く季節になりました。森の中へ春を探しに行こうと思います。