何という無茶なことを言うオジサンだ、と私は呆れ、2人の若者に同情したが、不思議に「何でもええから前へ出て行け」という言葉は強く心に残った。確かに、上手になってから、世間に出て行こうと思っていては、いつまでたっても上手にはならない。前へ出て行き、経験を積むことによって、人は段々上手になっていくのである。そして競争に負けたとしても、自分が新しい一歩を踏み出したことに比べれば、それは些細なことなのだ。芸人なら、勝とうが負けようが、ニコニコして、まずはお客に顔を覚えてもらえばよい。
巨大な樹木も初めは小さな芽から芽吹く。新しい一歩は小さな勇気で始まるのだ。
その先輩漫才師は才能ある人で、怒鳴り声もすさまじかったが、2人を引っ張った手は暖かかったと思う。
もう亡くなって久しいが、彼の無茶な励ましをなつかしく思い出す。