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新たな一歩

湯川 千恵子

今日の心の糧イメージ

人生にはその歳になって始めて気づき、納得出来る事が多い。

妻として、4人の子どもの母、主婦として生きてきた私は、56歳の時、夫を天に見送った後、どう生きていいか分からず途方に暮れた。

アメリカ留学中の娘夫婦に招かれて渡米し、そこで60歳になった私は「還暦」という人生暦の素晴らしさに始めて気づいたのである。

「還暦」とは60年で自分が生まれた年の干支に還ることで、数え年61歳のこと。これを機に人生を再出発して新しいことを学ぶのだ。

「そうだ!私も「還暦」で0歳の赤ちゃんに戻り、夢だった英語の勉強をここで始めようかな?」そう思ったら急に元気が出た。子どもたちも賛成してくれて少し突飛な「おばあちゃんの語学留学」が実現した。

娘宅に下宿して英語の勉強が始まった。1年後、娘夫婦が帰国する時、私は迷った。もし、一緒に帰国したら、私は70歳になった時、きっと後悔するだろう・・・。しかし病気にでもなったら・・・と不安がつきまとう。そんな中、夫の友人ご夫妻が近所に越して来たことを知り心丈夫になった。天国の夫が後押してくれた気がした。そこで私はアメリカに一人残り、「還暦の暦」で2歳の時、大学に入学。先生や学友に助けられて卒業し、更に大学院に進んで老年福祉を学び、認知症ケアの実習も逐えて帰国した。

 

そして7年半の留学の日々を書き綴って本を出版、73歳からは留学体験談をあちこちで話し、充実した毎日だった。

80代になった今、「還暦」の考え方は「東洋の智恵」だとつくづく想う。「人生は60から」と新たな一歩を踏み出す勇気が与えられ、新しいことを学ぶ楽しさを体験できるからである。