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ゆるし・いやし

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

ここ10年くらい、私はピアノでフランツ・リストの作品ばかり弾いています。ラ・カンパネラで知られるリストは、ハンガリー人の作曲家であり天才的な演奏家です。歴史上、彼を超えたピアニストはいないと言われる巨匠です。

その大きな手と信じがたい演奏法は、私の小さな手と実力ではとても弾きこなせるものではありません。それでもリストから離れられないのは、リストの音楽が、私の心を赦しと癒しで満たしてくれているからなのです。

リストは幼いころから天才として国際的に注目され、あまたの女性にもてはやされ、社交界のプリンス的存在でした。しかし外国人だったため、パリで門を叩いた音楽院の入学を拒まれ、音楽家として正式な学歴をもてませんでした。安定した結婚生活にも長くは恵まれませんでした。

そんな人生で、彼が強いられたさまざまな赦しと、彼自身の力で到達した悟りともいえる癒しの境地、そしてすべてを神に打ち明けて祈るカトリック信者としての内面が、音楽に凝縮されたと思うのです。

リストは超絶技巧で知られるため、華やかな曲風が注目されがちです。しかし弾き込んでいくと、超絶技巧は彼の「言葉」にすぎないことが分かります。華やかな曲の随所で、深く壮大なメロディーが現れます。まるで、地下に埋まった宝石がふと顔を出すかのように。

そうした旋律を弾くと、私の心には平安が訪れ、言葉にできない深い気持までが祈りに翻訳されて神様に届く気がします。リストが表現しようとしたのは、この心境ではないかと思いながら、毎日彼の作品を弾き続けているのです。

私にとって、リストの音楽は赦し、癒し、そして祈りです。祈りには、そういう形もあるのでしょう。