今でも覚えているのですが、その施設では毎年クリスマスの時期になると、恒例行事があります。無言の聖劇です。音楽に合わせて障害者の方々が、マリア、ヨゼフ、羊飼い、博士たち、天使等を演じるのです。一言も言葉を発しません。ところが、この一言も発しないことで、役をもらった人たちは1ヶ月ほどの練習の間、同じ演技を繰り返し、その役柄そのものになっていくのです。
いつも、冗談を言い、大きな声で落ち着かない人が、ある年はヨゼフの役につきました。すると日が経つにつれ、落ち着いた様子に変わり、顔もほんわかしていたのが、だんだんと凜々しくなっていくのに、皆びっくりしました。
本番での、まるで異次元の世界のような演技が、那須町の人々に深い感銘を与え始めました。それで、ある年から、那須町の公民館で一般の人々にも公開したのです。
この聖劇に出会い、役を演ずることによって、本質に深くふれ、イエスの誕生の喜びが、体に染み込んだ祈りに変わっていく人間の姿は、直感的に、まるで自分の人生にも起こりうることだと感じさせることが出来ると思ったのです。
イエスの誕生の喜びは、こうして聖書の語りから沈黙の喜びへと深まっていくわけです。